この記事でわかること

- 衣装代が経費になるかどうかの「考え方」
- カギになる「家事費」と「家事関連費」
- 昭和の判例が示した、服のお金の判断基準
- 仕事でも私生活でも着る服を、経費にできるかの判断ポイント
- 会社が衣装代を払うときの注意点


先生、動画の撮影で着る服って、衣装代として経費になりますよね?

最近とても増えている質問ですね。結論から言うと、仕事でしか使わない制服などは経費になりますが、普段も着られる服は基本的に経費になりません。

じゃあ、撮影用の服やジャケットはどうなるんですか…?

そこがいちばん迷うところです。昭和の裁判で示された「服のお金の考え方」を物差しにして、順番に解き明かしていきますね。
結論:衣装代は「3つのタイプ」で考える
| タイプ | 例 | 経費になる? |
|---|---|---|
| 仕事でしか使わない服 | 制服、作業着など | なる |
| 普段も着られる服 | 普段着、ジャケット・パンツなど | 基本的にならない |
| 普段も着られるが、仕事の立場や内容によって一定以上の種類・品質・数が必要な服(グレー) | ― | 仕事の分をハッキリ分けられれば、なる余地あり |
まず押さえたい2つの言葉
| 言葉 | 意味 | 経費になる? |
|---|---|---|
| 家事費 | 生活のためのお金(食費、家賃、服代など) | ならない |
| 家事関連費 | 仕事にも生活にも関係するお金 | 条件を満たした部分だけ、なる |
衣装代は、このどちらに当たるのかが問題になります。
昭和の判例が示した「服のお金」の考え方(京都地裁 昭和49年5月30日判決)
どんな裁判?
- 大学の先生(給料をもらう人)が起こした裁判です。
- 給料をもらう人は、実際の経費を差し引く代わりに、「給与所得控除」という決まった額を差し引いて税金を計算します。
- 先生は「実際にかかった経費のほうが多いのに、決まった額しか引けないのは不公平で、憲法違反だ」と訴えました。
- その「実際にかかった経費」の一つとして、背広(スーツ)などの服代が論点になりました(仕事以外でも着るので、8割分を主張)。
判決の考え方(服のお金について)
① 服のお金は、基本的に「家事費」
服はだれでも必要で、何を何着買うかは人の好みで変わるから。
② 着るよう決められていて、仕事でしか着られない服は、経費になる
警察官の制服のような服。
③ 仕事のために、一定以上の服が必要なら「家事関連費」
仕事の立場や内容によって、一定以上の種類・品質・数の服が必要な場合。
④ 背広などの服でも、仕事に必要な分をハッキリ分けられれば、経費になる「余地がある」
結局どうなった?
先生は服代などを払った証拠を出せなかったので、服代が経費になるかどうかまでは判断されず、訴えも認められませんでした。

「経費になる」じゃなくて、「余地がある」なんですね。

そうなんです。しかも、証拠がないと判断すらしてもらえない、というのも大事なポイントです。ちなみに、この判決は給料をもらう人の裁判です。個人事業主の衣装代を直接判断したものではありませんが、服のお金を「家事費」と「家事関連費」のどちらと考えるかの参考になりますよ。
グレーな衣装代を、判例で解き明かす
判例の①〜④を物差しにすると、迷いやすい衣装代も次の3ステップで考えられます。
- STEP1 仕事以外でも着られる服か?
着られない服(制服、ロゴ入りユニフォーム、ステージ用の衣装など)は、判例②に近い考え方で、経費になる可能性が高いです。 - STEP2 普段も着られる服なら、原則は「家事費」
判例①のとおり、普段も着られる服は基本的に経費になりません。 - STEP3 仕事のために、一定以上の服が必要か?
仕事に必要であることが前提です。そのうえで、仕事の立場や内容によって、一定以上の種類・品質・数の服が必要になる場合は、判例③のとおり「家事関連費」に当たる余地があります(たとえば、仕事のために普通の人以上に服をそろえたり、良いものを用意したりする必要がある場合)。家事関連費になれば、判例④のとおり、仕事の分をハッキリ分けられる部分は経費になる余地があります。
ケース1:インフルエンサーの撮影衣装
- 撮影でしか使えない衣装(コスプレ衣装、派手なステージ衣装など)は、STEP1で「仕事以外では着られない服」に当たり、経費になる可能性が高いです。
- 普段も着られる服を撮影で着る場合は、STEP2で原則「家事費」です。
- 撮影のために、一定以上の種類・品質・数の服が必要になる場合は、STEP3で家事関連費に当たる余地があります。そのうえで、いつ・どの撮影で着たかなど、仕事の分をハッキリ分けて示せれば、その部分が経費になる余地があります。
ケース2:ジャケット・パンツ(仕事にも私用にも使える服)
- ジャケット・パンツは普段も着られる服なので、STEP2で原則「家事費」です。判例の大学の先生の背広と同じ形です。
- STEP3のように、仕事の立場や内容によって一定以上の種類・品質・数の服が必要になる場合は、家事関連費に当たる余地があります(たとえば、仕事のために普通の人以上に服をそろえたり、良いものを用意したりする必要がある場合)。
- そのうえで、仕事の分をハッキリ分けられれば、その部分が経費になる余地があります。
- 「仕事で着ることのほうが多い」というだけでは足りません。いつ・どの仕事で着たかなど、仕事の分をハッキリ分けて示せないと、経費にするのは難しくなります。

撮影用に買っても、普段も着られる服なら、原則は経費にならないんですね…。

そうなんです。そのうえで迷ったときは、「仕事上の必要性があるか」「仕事以外でも着られるか」「仕事の分をハッキリ分けられるか」が判断のポイントになります。
個人事業主の場合
家事関連費のルール
個人事業主の衣装代のうち、仕事にも生活にも関係するものは、税金のルール上「家事関連費」として扱われ、基本的に必要経費(税金の計算で売上から引ける仕事のためのお金)になりません。
ただし、次のどちらかに当てはまる部分は、必要経費にできます。
- 家事関連費のうち、主な部分が仕事に必要で、仕事の分をハッキリ分けられる部分
- 青色申告をしている人なら、取引の記録などにもとづいて、仕事に直接必要だったことが明らかな部分
大事なのは「仕事に必要」と説明できること
「仕事で着ている」「仕事以外では着ていない」というだけでは、必要経費とは認められません。まず、その服が仕事のために必要であることを説明できることが前提です。
そのうえで、次のような記録があると説明しやすくなります。
- 領収書(いつ・どこで・いくらで買ったか)
- 仕事で着た記録(いつ、どの仕事で着たか)

普段も着られる服を、「仕事でも着るから」と全額経費にするのは、かなり難しいと考えてくださいね。
会社(法人)の場合
普段も着られる服は「現物給与」になることがある
会社が衣装代を払うと、その服を着る人に「現物給与」(お金ではなく物で渡す給料)を払ったと見られることがあります。
国税庁は、私服としても着られる背広(スーツ)を会社が渡した場合、給料として扱い、税金を天引き(源泉徴収)する必要があると説明しています。
制服なら、税金がかからないこともある
一方で、会社が用意する服が全部「給料」になるわけではありません。次のような制服や作業服などは、税金がかからない場合があります。
- 職場で仕事をするときだけ着るもので、私服として着ない・着られない
- その職場の全員(または同じ仕事の人全員)に渡したり、貸したりしている
- 見ただけでその会社の人だと分かる
社長の衣装代は特に注意
社長などの役員の給料は、「定期同額給与」(毎月同じ額で払う給料)など、決められた形でないと会社の経費になりません。そして、この「給料」には、会社にお金を出してもらった服のような利益も含まれます。
そのため、社長の衣装代を会社が払うと、社長の給料として税金がかかるうえに、会社の経費にもならない可能性があります。
役員報酬の考え方は、こちらの記事でも解説しています。
まとめ

ポイントを3つにまとめます。
①衣装代は、基本的に「家事費」。ただし、仕事でしか使わない制服などは経費になる。
②グレーな衣装代は、「仕事上の必要性があるか」「仕事以外でも着られるか」「仕事の分をハッキリ分けられるか」の3つで考える。
③会社が普段も着られる服を支給すると、「現物給与」として課税される場合がある。とくに社長の衣装代は注意。

「家事費」と「家事関連費」の違いが分かると、なぜ経費になりにくいのかが分かりますね!

そのとおりです。迷ったら、買う前に税理士に相談してくださいね。
